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専門的な内容を含みます

2型糖尿病の病態と治療薬の選択

メトホルミン・DPP-4阻害薬・SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬の特徴と使い分けについて、より専門的な内容を解説します。

治療薬の選び方

2型糖尿病の薬は、血糖を下げる力だけでなく、患者さんの病態(インスリンの効きが悪いのか、出る量が少ないのか)、合併症(心臓・腎臓など)、低血糖の起こしやすさ、年齢や生活をふまえて選びます。

日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドライン2024や、2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズムでも、「病態 → 安全性 → 心臓・腎臓への効果 → 飲みやすさ・費用」の順に考えることが示されています。

主な4種類の治療薬

薬剤代表的な薬主な作用
ビグアナイド薬メトホルミン(メトグルコ®など)肝臓で糖がつくられるのを抑え、インスリンの効きをよくする
DPP-4阻害薬シタグリプチン、リナグリプチンなど食後に腸から出るホルモン(インクレチン)を長持ちさせ、血糖が高いときだけインスリンを出す
SGLT2阻害薬エンパグリフロジン、ダパグリフロジンなど腎臓で糖が再吸収されるのを抑え、余分な糖を尿に出す
GLP-1受容体作動薬セマグルチド(飲み薬・注射)、デュラグルチドなどインスリン分泌を促し、食欲を抑え、胃の動きをゆっくりにする

このほかにも、α-グルコシダーゼ阻害薬、スルホニル尿素(SU)薬、チアゾリジン薬、イメグリミン、インスリンなどがあり、状態に応じて組み合わせます。

それぞれの薬の特徴

メトホルミン(ビグアナイド薬)

60年以上使われている薬で、世界的に長く第一選択とされてきました。

  • 単独では低血糖を起こしにくく、体重も増えにくい
  • 日本人では、肥満がない方でも肥満の方と同じくらい血糖を下げることが報告されています
  • 肥満の2型糖尿病で、心筋梗塞や死亡を減らしたという臨床試験(UKPDS)があります
  • 薬価が安く、長く続けやすい

注意点:飲み始めに下痢・吐き気などの胃腸症状が出ることがあるため、少量から始めて徐々に増やします。腎機能が大きく低下している方(eGFR 30未満)には使えません。脱水・大量の飲酒・造影剤を使う検査や手術の前後は、一時的にお休みします。長く飲んでいるとビタミンB12が不足することがあります。

DPP-4阻害薬

日本で最も多く処方されている糖尿病の飲み薬です。

  • 血糖が高いときだけインスリンを出すため、単独では低血糖を起こしにくい
  • 体重が増えにくく、1日1回(週1回の薬もあり)で飲みやすい
  • アジア人、特にやせ型の方で効果が高いことが報告されています
  • 腎機能が低下していても、量を調節して使える薬が多い

注意点:心臓や腎臓を守る効果は大規模試験で示されておらず、「心血管の病気を増やさない(安全である)」ことが確認されている段階です。SU薬と一緒に使うと低血糖が起こりやすくなるため、SU薬を減らしてから始めます。まれに水ぶくれ(水疱性類天疱瘡)が出ることがあります。

SGLT2阻害薬

血糖を下げるだけでなく、心臓と腎臓を守る効果が大規模な臨床試験で示されている薬です。

  • 心血管の病気を持つ方で、心血管死や心不全による入院を減らす
  • 腎臓病(尿たんぱく・アルブミン尿)の進行を遅らせる。糖尿病がない慢性腎臓病・心不全にも使われます
  • 尿に糖を出すため体重が減りやすく、血圧もやや下がります
  • 単独では低血糖を起こしにくい

注意点:尿量が増えるため脱水に注意し、こまめな水分補給が大切です。尿路や陰部の感染症が起こることがあります。体調不良で食事がとれない日(シックデイ)や手術の前はお休みします。だるさ・吐き気・腹痛があるときは、血糖値が高くなくても「ケトアシドーシス」の可能性があるため受診してください。極端な糖質制限との併用は避けます。高齢の方には慎重に使います。

GLP-1受容体作動薬

もともと体内にあるホルモン(GLP-1)と同じ働きをする薬で、注射薬と飲み薬(セマグルチド)があります。

  • 血糖を下げる力が強く、体重を減らす効果がある
  • 注射薬のいくつかは、大規模試験で心筋梗塞・脳卒中などを減らすことが示されています。飲み薬のセマグルチドでも、心血管の病気を減らす結果が2025年に報告されました
  • 血糖が高いときに働くため、単独では低血糖を起こしにくい
  • 週1回の注射で済む薬もあります

注意点:吐き気・胃もたれ・便秘などの胃腸症状が出やすいため、少量から始めます。飲み薬は「起床時の空腹時に、少量の水(約120mL以下)で飲み、30分は飲食や他の薬を控える」という飲み方が必要です。この飲み方が生活に合わない方は、週1回の注射のほうがかえって続けやすいこともあります。DPP-4阻害薬とは一緒に使いません。まれに急性膵炎や胆石・胆のう炎が起こることがあります。

4種類の比較

メトホルミンDPP-4阻害薬SGLT2阻害薬GLP-1受容体作動薬
血糖を下げる力中〜強中中強
低血糖(単独)起こしにくい起こしにくい起こしにくい起こしにくい
体重変わらない〜やや減る変わらない減る減る
心臓・血管を守る効果示唆あり示されていない(安全性は確認)ありあり
腎臓を守る効果—示されていないありあり(一部の薬)
主な副作用胃腸症状少ない脱水・尿路感染胃腸症状
飲み方・使い方1日2〜3回1日1回(週1回もあり)1日1回飲み薬1日1回/注射 1日1回〜週1回

病態・合併症からみた選び方

体のタイプからみた選択

肥満・内臓脂肪型

インスリンの効きが悪いタイプ。メトホルミンに加え、体重を減らす効果のあるSGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬が候補になります

やせ型・インスリン分泌低下型

インスリンの出る量が少ないタイプ。DPP-4阻害薬の効果が出やすく、メトホルミンも候補になります

合併症からみた選択

心筋梗塞・脳卒中の既往

心血管の病気を減らす効果が示されている、SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬の使用を検討します

心不全・心不全の予備群

心不全による入院を減らす効果が示されている、SGLT2阻害薬の使用を検討します

腎臓病(アルブミン尿・尿たんぱく)

腎臓の働きの低下を遅らせる効果が示されている、SGLT2阻害薬の使用を検討します。血圧の薬(ARB・ACE阻害薬)との併用も検討します

ご高齢の方

低血糖や脱水を避けることを最優先に。DPP-4阻害薬など低血糖を起こしにくい薬を中心に、量を控えめにして使います

脂肪肝(MASLD)

肝臓に脂肪がたまっている方。体重と肝臓の脂肪を減らす効果が期待できる、SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬が候補になります

長く血糖が高かった方

急に血糖を下げると、網膜症の悪化や神経の痛みが出ることがあります。眼科と連携しながら、時間をかけてゆっくり下げます

インスリン治療を検討するとき

インスリン注射は最後の手段ではなく、必要なときに早めに使うことで膵臓を休ませ、血糖を立て直すための治療です。

すぐにインスリンが必要な場合

インスリンがほとんど出ていない

1型糖尿病や、2型でも膵臓の働きが大きく低下している場合。血液検査(Cペプチド)でインスリンがどれだけ出ているかを確認します

急激な高血糖・ケトン体陽性

強いのどの渇き・多尿・急な体重減少・だるさ・吐き気がある場合。入院が必要なこともあるため、専門医療機関へ速やかにご紹介します

このほか、重い感染症や大きな手術のとき、妊娠中(妊娠を計画しているときを含む)も、インスリンで血糖を管理します。

インスリンを検討する場合

  • 飲み薬を組み合わせても、HbA1c 9%以上が続くとき
  • 空腹時の血糖がとても高い(250mg/dL以上など)とき
  • やせていて、栄養状態が低下しているとき
  • ステロイド薬の治療で血糖が上がっているとき

治療中に、はっきりした理由がないのに血糖が悪くなってきた場合は、インスリンの出る量やゆっくり進むタイプの1型糖尿病の可能性、感染症などほかの病気がないかも調べます。

インスリンが必要になったら

当院では、インスリンの導入が必要と判断した場合、糖尿病専門医のいる医療機関にご紹介し、連携して治療を進めます。血糖の高い状態(糖毒性)が解消されると、インスリンを減らしたり、飲み薬に戻したりできる場合もあります。

当院での治療方針

当院では、糖尿病標準診療マニュアル2026やガイドラインを参考に、患者さんごとに治療薬を選んでいます。

  • 体格・HbA1c・腎機能・合併症を確認したうえで、メトホルミンやDPP-4阻害薬など、低血糖を起こしにくい薬から治療を始めます(腎機能やご年齢に合わせて選びます)
  • 心臓・腎臓・肝臓の合併症や肥満がある方には、臓器を守る効果や体重を減らす効果が報告されているSGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬の使用を検討します
  • 少量から始め、2〜3か月ごとに効果と副作用を確認しながら調整します
  • 目標に届かないときは、そのまま様子をみ続けるのではなく、早めに薬の追加や変更を検討します
  • 血糖が急に悪くなったときは、薬を増やす前に、感染症やほかの病気が隠れていないかを確認します
  • 血糖が良くなれば、薬を減らしたり中止したりできることもあります
  • インスリンが必要な場合などは、糖尿病専門医と連携して治療を行います

糖尿病の治療で何より大切なのは、通院を続けることです。血糖が思うように下がらない時期があっても、定期的に受診していただくことで、合併症やほかの病気を早く見つけることができます。数値が悪くて行きづらいと感じるときこそ、気軽にご相談ください。