肥満症とは、ただ体重が多いだけでなく、肥満が原因で健康障害を合併しているか、その合併が予測される状態をいい、医学的に減量を必要とする病気です。
日本肥満学会の肥満症診療ガイドライン2022では、体格指数(BMI=体重[kg]÷身長[m]²)が25以上を「肥満」と定義しています。ただし、肥満のすべてが肥満症というわけではありません。肥満に加えて、糖尿病や高血圧などの健康障害を伴う場合、あるいは内臓脂肪が蓄積している場合に「肥満症」と診断されます。
肥満度の分類
| BMI(kg/m²) | 判定 |
|---|---|
| 18.5未満 | 低体重 |
| 18.5〜25未満 | 普通体重 |
| 25〜30未満 | 肥満(1度) |
| 30〜35未満 | 肥満(2度) |
| 35〜40未満 | 肥満(3度)=高度肥満 |
| 40以上 | 肥満(4度)=高度肥満 |
※BMI 35以上は「高度肥満」に分類され、より積極的な治療が必要になります。
肥満症の診断
肥満(BMI ≧ 25)と判定された方のうち、以下のいずれかに当てはまる場合に「肥満症」と診断されます。
- 肥満に起因する健康障害を1つ以上合併している
- 内臓脂肪型肥満である(ウエスト周囲長が男性85cm以上・女性90cm以上で疑い、腹部CT検査で内臓脂肪面積100cm²以上を確認して判定)
いずれも、減量により予防や改善が期待できるとされています。
2型糖尿病・耐糖能異常など。内臓脂肪の蓄積がインスリンの効きを悪くします
悪玉コレステロールや中性脂肪が増え、善玉コレステロールが減りやすくなります
体重が増えると血液量が増え、血管にかかる圧力が高くなります
尿酸値が上がりやすく、痛風発作のリスクが高まります
心筋梗塞や狭心症など、心臓の血管が詰まる病気のリスクが上がります
脳の血管が詰まる病気のリスクが高まります
お酒を飲まなくても、内臓脂肪の蓄積により肝臓に脂肪がたまります
排卵障害による無月経や月経不順が起こりやすくなります
のどの周りに脂肪がつくことで気道が狭くなり、睡眠中に呼吸が止まります
膝関節・股関節・脊椎への負担が増え、変形性関節症や腰痛の原因になります
腎臓に負担がかかり、蛋白尿や腎機能低下につながることがあります
このほか、がん・胆石症・気管支喘息・胃食道逆流症・静脈血栓塞栓症・皮膚疾患・男性不妊なども肥満に関連する健康障害として知られています。
肥満の原因
肥満の多くは、もともとの体質にさまざまな生活習慣が重なって起こります(原発性肥満)。日本では成人男性の肥満者割合がすべての年代で長期的に増加しており、特に40〜50歳代でもっとも多くなっています。
エネルギー摂取量の過多は体重増加に直結します。脂質の多い食事や糖質の摂りすぎに注意が必要です
早食いは満腹感を感じる前に食べすぎてしまい、エネルギー摂取量の過多につながります。食べる速さと肥満度には関連があることが報告されています
身体活動量の増加は肥満を抑制します。デスクワークやテレビ視聴など座っている時間が長いことも、独立して肥満と関連しています
睡眠時間が短い(5時間以下)と肥満の発症と関連することが報告されています。食欲を増すホルモン(グレリン)が増え、満腹を感じるホルモン(レプチン)が減るため、体重が増えやすくなります
朝食を抜く習慣は肥満やメタボリックシンドロームと関連しています。また、夜間遅くの食事は動脈硬化性疾患や2型糖尿病のリスクを高めることが報告されています
慢性的なストレスは過食に陥りやすくし、内臓脂肪の蓄積にもつながります
お酒の飲みすぎはエネルギー過多を招き、体重増加のリスクを上げます。少〜中等量であれば大きな影響はないとされています
喫煙者はやせている方が多い一方で、重度の喫煙者は肥満度やウエスト周囲長が大きいことが報告されています。また、禁煙後には一時的に体重が増えやすくなります
ご家族に肥満の方がいる場合、体質的に太りやすい傾向があります
女性は閉経後にエストロゲンが減少し、男性は加齢に伴いテストステロンが低下することで、内臓脂肪がつきやすくなります
治療について
治療の目標
肥満症の治療では、減量そのものが目的ではなく、健康障害の改善が目標です。体重やウエスト周囲長の変化だけでなく、合併する健康障害がよくなっているかを評価しながら治療を進めます。
| 分類 | 減量目標 | 食事療法の目安 |
|---|---|---|
| 肥満症(BMI 25〜35) | 現体重の3%以上 | 25kcal×目標体重(kg)/日以下 |
| 高度肥満症(BMI ≧ 35) | 現体重の5〜10% | 20〜25kcal×目標体重(kg)/日以下 |
※目標体重は、65歳未満は身長(m)²×22、65歳以上は身長(m)²×22〜25で計算します(詳しくは下の「1日の摂取エネルギー量の目安」)。3〜6か月を目安に治療成果を評価します。
減量で期待できる効果
「たった3%」と思われるかもしれませんが、少しの減量でも健康障害の改善が期待できることが多くの研究で示されています。
- 血圧: 現体重の3%以上の減量で、血圧の有意な低下が期待できます
- 脂質: 体重1kg減量あたり、悪玉コレステロール(LDL-C)が約0.8mg/dL、中性脂肪が約1.3mg/dL低下
- 血糖: 肥満を伴う耐糖能異常の方が生活習慣を改善し体重を減らすと、2型糖尿病の発症リスクが44〜58%低下したという研究結果があります
内臓脂肪は皮下脂肪にくらべて減りやすいため、減量の効果が比較的早く現れやすいのも特徴です。
合併症ごとの改善効果
減量によって各合併症がどのくらい改善するかは、研究で具体的な数値が示されています。
| 合併症 | 減量幅 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 2型糖尿病 | 7% | 糖尿病への移行リスクが58%減少(米国DPP試験) |
| 脂質異常症 | 1〜3% | 中性脂肪(TG)・LDLコレステロール・HDLコレステロールが改善 |
| 高血圧 | 平均4kg | 収縮期血圧が平均4.5mmHg以上、拡張期血圧が平均3.2mmHg低下 |
| 高尿酸血症・痛風 | 3% | 血清尿酸値の有意な改善 |
| 心房細動 | 10% | 心房細動の発生を抑制。減量が3%未満の方に比べ、5年後に洞調律(正常なリズム)を保てていた割合が6倍 |
| 脂肪肝(NAFLD) | 7%以上 | 肝臓の脂肪化・炎症が改善。10%以上で肝線維化も改善 |
| 月経異常 | 5〜10% | 月経周期・排卵の回復が期待できる。理想体重に届かなくても効果あり |
| 睡眠時無呼吸 | 10% | 無呼吸低呼吸指数(AHI)が26%減少。逆に10%の体重増加でAHIは32%悪化 |
| 変形性膝関節症 | 5.1% | 膝の疼痛・歩行機能が改善 |
| 腎臓病 | 体重1kgあたり | 蛋白尿が110mg、尿中アルブミンが1.1mg減少 |
このように、大幅な減量をしなくても3〜5%の減量で多くの合併症に改善がみられます。「目標体重まで遠い」と感じても、まずは現体重の3%を目指すことが大切です。
治療の基本
治療の基本は食事療法・運動療法・行動療法の3本柱です。3〜6か月を目安に治療成果を評価し、目標に達しない場合は治療の強化や薬物療法の導入を検討します。
食事療法
肥満症治療の基本は食事療法です。食事療法により内臓脂肪を減少させ、健康障害の改善を目指します。
目標体重に基づいて1日の摂取エネルギー量を設定します。無理な食事制限(全飢餓療法)は危険です
炭水化物50〜65%、蛋白質13〜20%、脂肪20〜30%を目安に、必須アミノ酸を含む蛋白質、ビタミン、ミネラルを十分に摂取します
野菜・海藻・きのこ・全粒穀物などの食物繊維は、体重・血圧・コレステロール・中性脂肪の改善に効果が示されています。1日25〜29gが目標です
蛋白質摂取割合が少ないことは肥満と関連しています。蛋白質は満腹感を得やすく、長期の体重維持にも効果的です
1日の摂取エネルギー量の目安
目標体重をもとに、1日に摂ってよいエネルギー量の目安を計算できます。
目標体重 = 身長(m) × 身長(m) × 22(65歳未満の場合)
| 分類 | 1日の摂取エネルギー量 | 計算例(身長170cmの場合) |
|---|---|---|
| 肥満症(BMI 25〜35) | 25kcal × 目標体重(kg) 以下 | 25 × 63.6 = 約1,590kcal以下 |
| 高度肥満症(BMI ≧ 35) | 20〜25kcal × 目標体重(kg) 以下 | 20 × 63.6 = 約1,270kcal以下 |
※65歳以上の方は目標とするBMIが22〜25の範囲となり、年齢や体の状態に合わせて個別に目標体重を設定します。
運動療法
運動は体重減少そのものよりも、死亡・心血管疾患のリスク低下や減量後の体重維持に大きな効果があります。
ウォーキング・水泳・サイクリングなどを1日30分以上、週5日以上(週150分以上)が目標です。短時間に分けても合計30分でOKです
レジスタンス運動を併用すると、サルコペニア(筋肉の減少)を防ぎながら体脂肪を減らせます。週2〜3回を目安に取り入れましょう
座っている時間が長いこと自体が、運動量とは独立して死亡リスクや心血管疾患リスクを高めます。「今より10分多く体を動かす」ことから始めましょう
行動療法
行動療法は、食事や運動の効果を高め、リバウンドを防ぐために欠かせない治療法です。
毎日体重を測ってグラフにすることで、生活リズムの乱れに早く気づけます。減量に成功した方に共通する習慣です
早食いは肥満のリスクを高めます。ひと口30回を目安にゆっくり噛むことで、満腹感が得られやすくなり、内臓脂肪の減少にもつながります
朝食の欠食、夜食、不規則な食事時間は肥満の原因になります。生活リズムの修正は過食や運動不足の改善と同じくらい大切です
スマートフォンのアプリで食事内容や体重を記録すると、継続率が高まり、少なくとも6か月間の減量に有効です
生活リズムと肥満
肥満の予防・治療には、食事量や運動だけでなく、1日24時間の生活リズム全体を整えることが重要です。
朝食の欠食は肥満・メタボリックシンドローム・2型糖尿病の発症と関連しています。適正な総エネルギー摂取量のもとで、朝食を摂る習慣を心がけましょう
夜間遅くに食事を摂る習慣は、朝食欠食と合わさるとメタボリックシンドロームの合併率が高まることが報告されています。夕食はできるだけ早い時間に済ませましょう
睡眠時間と全死亡率はU字型の関係にあり、短すぎても長すぎても健康リスクが上がります。心血管疾患予防も含め、5〜8時間の睡眠を目安にしましょう
薬物療法
食事・運動・行動療法を3〜6か月行っても月0.5〜1kg程度の減量が得られない場合に、薬物療法の併用を検討します。
- ウゴービ(セマグルチド):GLP-1受容体作動薬。食欲を抑え体重を減少させる作用があり、2023年に肥満症治療薬として承認され、2024年に発売されました
- ゼップバウンド(チルゼパチド):GIP/GLP-1受容体作動薬。2つのホルモン受容体に作用し、より強力な減量効果が期待されます。2024年に肥満症治療薬として承認され、2025年に発売されました
- SGLT2阻害薬:尿中にブドウ糖を排泄させることで、負のエネルギーバランスをつくり、1.5〜2kgの減量効果が報告されています。糖尿病の治療薬としての保険適用です
- マジンドール:食欲を抑制する薬で、高度肥満症に対して保険適用があります(連続使用は3か月まで)
※2026年には、ゼップバウンドが中等症以上の睡眠時無呼吸症候群(BMI 27以上)に、ウゴービが肝硬変を伴わないMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)に、それぞれ適応が広がりました。いずれも肥満症と同じく、使用できる医療機関や対象となる方が限られています。
ウゴービ・ゼップバウンドの保険適用について
ウゴービ・ゼップバウンドは画期的な肥満症治療薬ですが、厚生労働省の最適使用推進ガイドライン(ウゴービ・ゼップバウンド)により、日本での保険適用の基準は非常に厳しく設定されています。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 対象患者 | 高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかがあり、BMI≧27で健康障害が2つ以上、またはBMI≧35 |
| 前提となる治療 | 処方する医療機関で食事・運動療法を6か月以上行っても効果不十分であること。合併する高血圧・脂質異常症・2型糖尿病に対して、すでに薬物療法が行われていること |
| 栄養指導 | 2か月に1回以上、管理栄養士による栄養指導を受けていること(投与中も継続) |
| 投与期間 | ウゴービは最長68週、ゼップバウンドは最長72週。3〜4か月使っても改善が見られなければ中止 |
| 処方できる施設 | 日本循環器学会・日本糖尿病学会・日本内分泌学会のいずれかの教育研修施設で、これらの学会の専門医と管理栄養士が常勤している医療機関 |
このように、当院を含む一般の内科クリニックの多くはこの要件を満たさず、保険で処方することはできません。なお、同じ成分を含む糖尿病の治療薬(オゼンピック・マンジャロなど)も、肥満症の治療目的では保険で使用できません。
また、これらの薬は肥満症の治療薬であり、国と日本肥満学会は、美容・痩身・ダイエットを目的とした使用をしないよう求めています。海外からの個人輸入や未承認薬を自己判断で使用することも、安全性が十分に検証されていないため注意が必要です。
なぜ美容・痩身目的で使ってはいけないのでしょうか。いちばんの理由は、健康障害のない方には、この薬で得られる利益がないことです。ウゴービやゼップバウンドは、肥満によって血圧や血糖などの健康障害がある方で、減量による改善が副作用のリスクを上回ると判断されて承認された薬です。健康な方が見た目のためにやせても改善する病気はなく、頻度は低くても、膵炎、胆石・胆嚢炎、嘔吐や下痢による脱水と腎障害などのリスクだけが残ります。また、使用をやめると体重や検査値が元に戻りやすいことも知られています。
2023年には、美容・痩身目的の自由診療での処方が広がった影響もあり、糖尿病の治療に使うGLP-1受容体作動薬が品薄になって、厚生労働省が適正使用を呼びかけました。
さらに日本肥満学会は2025年、日本の20代女性の約2割が低体重(BMI 18.5未満)で、骨量の低下や月経異常などにつながっていることから、「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)」という新しい考え方を提唱しました。その背景のひとつとして、GLP-1受容体作動薬が「安易な痩身法」として紹介されていることが挙げられています。やせすぎも、肥満と同じように健康を損なうことを知っていただければと思います。
外科療法
主に高度肥満症(BMI 35以上)の方で、内科的治療を6か月以上続けても十分な効果が得られない場合には、減量・代謝改善手術(主に腹腔鏡下スリーブ状胃切除術。保険適用)が選択肢になります。
専門の医療機関へのご紹介
当院での食事・運動・行動療法で十分な効果が得られない場合や、薬物療法・手術による治療が適していると判断した場合は、肥満症を専門とする医療機関をご紹介します。
肥満とメンタルヘルス
肥満、特に高度肥満症では、うつ病・不安障害・摂食障害などの精神疾患を合併する割合が高いことが知られています。
肥満があることで社会的な偏見や差別を受け、自己肯定感が低下し、受診をためらったり治療を途中でやめてしまうケースも少なくありません。また、ストレスや抑うつが過食につながり、体重がさらに増えるという悪循環に陥ることもあります。
肥満症の治療では、必要に応じてメンタルヘルスの評価や心理的サポートを並行して行うことが大切です。気分の落ち込みや過食が続く場合は、心療内科や精神科への相談も選択肢のひとつです。
肥満に対するスティグマ
肥満症の治療においては、肥満に対するスティグマ(偏見・差別)を排除することも重要です。
肥満は自己責任によって起こるものではなく、遺伝的な体質、社会的・心理的な要因が複合的に関与して生じます。「意志が弱いから太る」という誤った認識は、肥満のある方が受診をためらう原因となり、適切な治療の機会を逃すことにつながります。
肥満症と診断されれば、治療の必要があるという認識を患者さんも医療者ももつことが大切です。
当院でできること
当院では、肥満症およびそれに合併する生活習慣病の診断・治療・経過観察を行っています。
- 体重・BMI・ウエスト周囲長の測定
- 血液検査による健康障害のスクリーニング(血糖・脂質・尿酸・肝機能・腎機能など)
- お一人おひとりに合った減量目標の設定と療養計画の作成
- 食事・運動・生活習慣に関する指導・管理
- 合併する生活習慣病(糖尿病・高血圧・脂質異常症など)の治療・管理
- 定期的な検査による治療効果の評価
- 必要に応じた専門医療機関への紹介(薬物療法や手術の検討を含みます。当院ではウゴービ・ゼップバウンドは処方していません)
当院は平日は17時から、土日は14時から診療しておりますので、仕事帰りや週末にも通院いただけます。健康診断で肥満や血圧・血糖・脂質の異常を指摘された方、減量でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。